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SFから現実へ:マルチバースを描く最新作品とその科学的根拠

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1.はじめに

(1)はじめに

-(1)はじめに

近年、SF(科学小説)の中でよく描かれる「マルチバース(多元宇宙)」の概念。これは、我々が生きるこの宇宙だけではなく、無数に存在するとされる平行宇宙のことを指します。このアイデアは、一部の物理学者たちからも支持されており、現実の科学の中にその根拠を見出すことができます。

しかし、実際には、このマルチバースがどのようなものなのか、またその存在が証明されたとしたらどのような意味を持つのかについては、まだ全く解明されていません。それがSFの世界では、さまざまな可能性が描かれ、それぞれが独自のドラマを生み出しています。

本稿では、SFと現実の科学が交錯するマルチバースについて考察します。具体的には、マルチバースをテーマにしたSF作品とその背後にある科学的知識を解説し、科学とフィクションがどのように関わり合っているのかを探求します。

2.SFとマルチバース:描かれる可能性のドラマ

(1)マルチバースを描くSF作品の歴史

マルチバースという概念は、SF作品において長い間活用されてきました。映画や文学、テレビ番組など、さまざまなメディアで扱われてきたこの概念は、物語に無限の可能性を提供してきました。

初期の例としては、1952年に出版されたマイケル・ムーコックの「エタニティの狭間」における多元宇宙が挙げられます。また、1960年代のスタートレックでは、平行宇宙が度々登場しており、この考え方はその後の作品にも大きな影響を与えました。

近年では、マーベルシネマティックユニバース (MCU) の「ドクター・ストレンジ」や「アベンジャーズ:エンドゲーム」での量子レルム、そしてNetflixの「ダーク」における時間と宇宙の複雑な交錯など、マルチバースの描写がさらに洗練されています。

以下に具体的な作品とその公開年をまとめました。

年代作品名
1950年代エタニティの狭間
1960年代スタートレック
2010年代ドクター・ストレンジ、ダーク

これらの作品は、科学的な理論を背景に、人間の想像力が広がるマルチバースという舞台を提供した一方で、その描写は時代と共に変化してきました。

(2)最新のSF作品で描かれるマルチバース

近年のSF作品では、マルチバースを鮮やかに描き出すものが増えています。その中でも特筆すべきは、映画「アベンジャーズ:エンドゲーム」やNetflixのシリーズ「ストレンジャー・シングス」であります。

「アベンジャーズ:エンドゲーム」では、タイムトラベルとマルチバースの概念が緻密に絡み合いながら、複数の宇宙が平行して存在する構造を提示しています。一方、「ストレンジャー・シングス」では、異世界「アップサイドダウン」と現実世界が交差する点でマルチバースが描かれています。

また、テレビシリーズ「マンデラー効果」は、記憶と現実が食い違う現象をマルチバースの観点から捉え、宇宙のいくつものバージョンを提示しています。

これらの作品は、マルチバースについて異なるアプローチを用いつつも、一貫して可能性と未知への探求を追求しています。それぞれの世界観は、視覚的にも物語性にも豊かで、現代の科学理論が提供する未解決の問いを、視覚的にそして物語性を通じて提示しています。

3.現実の科学:マルチバース理論の概要

(1)量子力学と多世界解釈

量子力学は、物質の最小単位である粒子の振る舞いを説明する理論です。この理論では、粒子は確定的な状態にあるのではなく、いくつもの可能性が重ね合わさった状態で存在しています。これが「重ね合わせの状態」と言われます。

そして、ここから派生するのが「多世界解釈」です。これはすべての可能性が現実化するという理論で、何かが起こる度に世界が分岐し、無数のパラレルワールドが同時に存在するとされます。

表1:量子力学と多世界解釈の関連性

量子力学多世界解釈
粒子の振る舞いを説明全ての可能性が現実化
重ね合わせの状態世界が分岐

この多世界解釈は、SF作品におけるマルチバースの一つのベースとなっています。

(2)宇宙膨張とインフレーション理論

宇宙膨張とインフレーション理論は、我々の宇宙が他の宇宙とともに存在する「マルチバース」を説明する科学的根拠となっています。

インフレーション理論は、ビッグバン直後に宇宙が超高速で膨張したというものです。これにより、現在観測できる宇宙は、その全体の一部に過ぎないと考えられています。そして、この急激な膨張は一部の地域では早く終わり、他の地域では遅く終わったとされています。これが連続的に起こると、我々が生活している「宇宙」は無数に存在する「バブル宇宙」の一つに過ぎないことになります。

以下に、インフレーション理論によるマルチバースのイメージを示します。

【表】

  1. ビッグバン直後:急速な宇宙の膨張(インフレーション)
  2. インフレーション終了:地域ごとに異なるタイミングで膨張終了
  3. 結果:無数のバブル宇宙(マルチバース)の生成

SF作品では、このような現実の科学的理論を元にマルチバースを描くことがあります。

(3)ストリング理論とブレーンワールド

ストリング理論とは、全ての粒子が微小な「ストリング」、つまり一次元の振動物体によって構成されているとする物理学の理論です。

この理論は、従来の物理法則を統一しようとする試みであり、その中で「マルチバース」の可能性を提示しています。特に、この理論の一部である「M理論」は、我々が生活する3次元空間以外にも追加の次元が存在すると述べています。

そして、その追加次元を含むすべての次元が拡張された3次元の空間、「ブレーン」と呼ばれるものによって形成されています。これが「ブレーンワールド」の概念です。

ブレーンワールドにおけるマルチバースとは、異なるブレーンが異なる宇宙を形成し、それぞれが平行して存在しているというものです。

このような観念は、SF作品における新たなマルチバース表現の源泉ともなり得ます。

4.現実からSFへ:科学的根拠をベースにしたマルチバースの描写

(1)SF作品における科学的予測の反映

SF作品は、時代とともに科学的知識を反映して進化します。特にマルチバースの描写においては、物理学や宇宙論の成果が大きく影響を与えています。

例えば、1960年代の「スタートレック」では、パラレルワールドが存在するというアイデアが登場しました。これは、「多世界解釈」という量子力学の一部を反映したものであり、科学的根拠に基づいた描写と言えます。

また、近年では「インターステラー」のような作品が登場し、ブラックホールを通した別の宇宙(マルチバース)への旅を描いています。この描写は、一般相対性理論に基づく宇宙の構造を反映したものであり、SF作品が現実の科学的予測を忠実に描いている良い例と言えるでしょう。

以上のように、SF作品は科学的な予測を基にマルチバースを描くことで、視覚的に理解しやすい形でその可能性を読者や視聴者に提示しています。

(2)現実の科学との乖離:SFの自由度

SF作品は、現実の科学の範囲を超える自由な発想を許容します。マルチバースについても、その可能性を最大限に探求する場となっています。

例えば、「並行世界で自分が大統領になっていたら」といった、現実では経験できない状況の描写です。これは、現実の科学がまだ証明できていないマルチバースの「選択によって分岐する世界」を想像する一つの手法と言えます。

表1:SFと現実の科学の対比

SF現実の科学
描ける範囲無制限現在の科学理論が許す範囲
マルチバースの描写任意の世界が存在可能多世界解釈やインフレーション理論などの理論に基づく

このようなSFの自由度こそが、次世代の科学者たちに新たな視点や仮説を提供します。そして、これらの仮説が現実の科学に反映されるとき、SFは再び現実へとつながるのです。

(3)描かれたマルチバースが現実の科学に与える影響

マルチバースがSF作品に描かれることで、一般の人々が理論物理学への関心を持つきっかけを作り出すと同時に、科学者たちへ新たな視点や仮説を提供します。例えば、ヒューゴー賞受賞作品「三体」シリーズは、宇宙論の専門家たちの間でも議論の対象となりました。

また、SF作品は、難解な科学的概念を直感的に理解するための「思考実験」としても機能します。アインシュタインが特殊相対性理論を説明するために列車の例を用いたように、SF作品に描かれるマルチバースも、現実の科学を語る際のメタファーとして利用されることがあります。描かれたマルチバースが現実の科学に与える影響は、まさにこのような知識の普及と深化に貢献する形で現れています。

5.まとめ

(1)まとめ

本稿では、SFから現実へと展開されるマルチバースについて、その描写方法と科学的根拠を探求しました。SF作品には、量子力学、インフレーション理論、ストリング理論等々、多くの先端科学が反映され、多次元的な世界観を創造しています。しかし、それらは完全に現実の科学に基づいたものばかりではなく、作り手の自由度を反映したものも多々あります。

一方で、SFに描かれたマルチバースが、現実の科学研究に影響を与えることも見受けられます。SFから現実へ、そして再びSFへという、この循環は今後も続いていくことでしょう。終わりに、SF作品は私たちに新たな視点を提供し、知識を豊かにするだけでなく、科学研究の進展にも寄与する重要な存在であることを再確認しました。